【史料・解説】グラティアヌス教令集

三成美保(掲載:2014.07.15)

A:解説

●グラティアヌス

「カノン法学の父」とよばれるヨハンネス・グラティアヌス(Johannes Gratianus:1100頃-1150頃)の生涯については、不明な点が多い。しかし、グラティアヌスという名の法学教師が12世紀にボローニアで活躍し、『矛盾教会法令調和集(矛盾しているカノン法令の調和)』(Concordia canonum discordantium:1140年頃)をまとめたことは事実として確認されている。同書は、彼の名を冠して『グラティアヌス教令集』(Decretum Gratiani)と呼ばれた(⇒*【法制史】教会法(三成美保))。

この教令集は、4世紀から12世紀半ばまでのカトリック教会の法源(教会法令)から3900の法文を選んで構成されている。公会議決議(canones)、教皇令(decretales)、ラテン教父*の著作からの抜粋(約1200法文)が収録されている。当時の他の法令集と比べても、きわめて包括的・体系的であった。さらに、グラティアヌスは、法文間の矛盾を説明するために独自の註釈(付言dicta)をつけた。同書は私人の著作ながら、非常に権威をもち、のちにまとめられた『カノン法大全』(Corpus Iuris Canonici)の第一部となった。しかし、法律として適用されたわけではない(ヨンパルト1997:95)。

*「教父」(Patres Ecclesiae)とは、おおむね、初代教会(1~3世紀)から7世紀ごろまでの、キリスト教について優れたものを書いた司教をさす(ヨンパルト1997:67)。

●グラティアヌス教令集の内容

本書は、三部構成をとる(以下は、勝田・山内2008:15-17を参照)。
(1)第一部は、約1000法文を収める。主題ごとに101の「文節」に分けられ、法文がほぼ年代順に並べられている。法源、聖職者の要件、協会権力の問題などを論じる。

Kopie des Manuskripts

(2)第二部は、約2500法文を収める。具体的な紛争事例を前提に36「事例」からなる。うち、第33事例には、贖罪規定(219法文)が定められている。36事例の内容は以下の通りである。
1:聖職売買、2~6:教会裁判権、7~9:聖職叙任権、10~15:教会財産・裁判手続き、16~20:修道院、21~23:在俗聖職者・宣誓・戦争、24:異端・破門、25:立法権、26瀆神。
27~36はすべて婚姻に関わる問題を扱う。
27:聖職者の結婚禁止、28:異教徒との結婚、29:異身分間結婚、30:養親子・霊的親子関係の結婚、31:姦通相手との結婚、32:妻に子がないときの侍女との結婚、33:妻の不品行を理由とした離婚、34:再婚後に夫が生還したとき、35:血族と姻族、26:略奪婚。

(3)第三部は、約400法文を収める。祝聖・秘蹟を扱う。

●カノン法大全

『カノン法大全』というタイトルでの最初の出版は、1500~1503年のことであった。5つの部分からなる。これらのうち、法律として効力をもったのは、Ⅱ・Ⅲ・Ⅳの3つである(ヨンパルト1997:95-96)。
Ⅰ:グラティアヌス教令集(1140年頃)
Ⅱ:グレゴリオ9世教皇教令集(1230年)
Ⅲ:ボニファチオの第6集(1298年)
Ⅳ:クレメンス教皇令集(1305-1314,1317年)
Ⅴ:上記以外の二つの教令集

近代以降、教会法は法典化された。1917年旧「教会法典」(2414カノネス)と1983年「教会法典」(現行法)(1752カノネス)である。

【参考文献】
勝田有恒、山内進編著『近世・近代ヨーロッパの法学者たちーグラーティアヌスからカール・シュミットまで』ミネルヴァ書房、2008年、とくに12-23頁(渕倫彦)
ホセ・ヨンパルト『教会法とは何だろうか』成文堂、1997年

B:史料

グラティアヌス教令集の刊本としてもっとも広く利用されているのが、下記のフリードベルク版(1879年)である。
Decretum magistri Gratiani. Ed. Lipsiensis secunda post Aemilii Ludovici Richteri curas ad librorum manu scriptorum et editionis Romanae fidem recognovit et adnotatione critica instruxit Aemilius Friedberg, Leipzig 1879 (Corpus iuris canonici ; 1)
デジタル史料(バイエルン州立図書館) → http://geschichte.digitale-sammlungen.de/decretum-gratiani/online/angebot

An illustration from a 13th-century manuscript of the work, illustrating the kinds of blood relatives and common ancestry which made marriage impossible and contracted marriages null – it has since then been dispensed with so third cousins can now marry.

Fragment, concordia discordantium canonum

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Las glosas escritas en los propios márgenes del libro.

El fin último de este trabajo fue lograr la unificación jurídica que la Iglesia se propuso a partir del final de la Alta Edad Media.